今回は、DXを推進する時の本質を理解していただくために、新しい技術を活用したプロダクトを開発してきた経験があり、現在その知見をもとに企業へDX支援を行っているプロの方々へインタビューを行いました。参考にしていただけますと幸いです。
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福田 登仁氏
1959年11月生まれ、大阪府出身
「鈴鹿8時間耐久ロードレース」にて国内初のウェアラブルシステムの導入を成功させ、サーキットに旋風を呼び起こした仕掛け人。
大手自動車会社技術部を経て、マニュアル制作会社でマニュアルプロダクトに携わる。
その後、独立し、マニュアル制作を主としたテクニカルスタジオWESTを立ち上げる。
事業拡大に伴い有限会社ウエスト(現ウエストユニティス株式会社)を設立し代表取締役に就任。
ウエストユニティス株式会社代表取締役社長、米国法人WESTUNITIS INC.CEO/Founderを歴任し、
NPO法人 ウエアラブルコンピュータ研究開発機構 副理事長に就任(現任)。
同時に、Technical evangelist就任(現任)。
大熊 一慶氏
2011年からモンスター・ラボに入社。当初はプログラミングに従事、その後法人ソリューション営業、
オフショア開発マネジメント(ベトナム・中国)等を経て2014年にアプリやシステム開発を世界中の優秀なエンジニアチームにアウトソースできるグローバルソーシングサービス「セカイラボ」を新規事業、子会社として起ち上げ、代表取締役COOに就任。
主に法人営業・ビジネスデベロップメント、海外M&AのビジネスDD等を担当。
M&A戦略を軸にイギリス、デンマーク等の欧米に拠点を構え12カ国で約1,000名ほどのエンジニア、クリエイターの社員を抱えるサービスに成長。
2018年にはARシステムを研究・開発するピスケスを創業、CEOに就任。
2020年から独立し、B2Bスタートアップ・中小企業の事業計画・戦略立案(PL/CF/KPI設計・運用)、DX推進等を行っている。
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新しい技術とDXについて
お二方は、新しい技術、特にARを活用したプロダクトを開発してきた経験がありますが、まずはARの今後の方向性ついて、これまでの経験を踏まえてお話いただくことはできますか?
福田登仁氏(以下、敬称略)
ARに関しては、2005年から独自のエンジンを作ってウェアラブル端末をつくっていました。特に、産業用途として工場にターゲットを絞っていました。最初はピッキング向けに開発をし、日系企業の海外の工場で使ってもらっていました。
また、分解組み立ての手順をMRを活用してナビゲーションすることも当時はやっていました。結果的には、ハードウェアのスペックの問題があり、表示までに時間がかかり使えないということがよくありました。
今は、スマートグラスになってきて、現在のハードウェアのスペックを見ると当時、私がやりたかったことが確実にできているのではないかと思います。
ウェアラブルに関しては、当時、私は作業の順番とか、やっている作業の録画したものをマニュアル化とかをやっていましたが、今のプレイヤーもその方向に向かっています。
ウェアラブル端末の産業用市場に関してはプレイヤーがだいたい決まってきましたが、
もっと大きな市場、コンシューマー市場についてはみんな狙ってくるでしょう。たとえば、MicrosoftはMeshをリリースしていますが、街角でリアルとバーチャルのゲームができるようになるのは確実にやってくるでしょう。
大熊さんはいかがでしょうか?
大熊 一慶氏(以下、敬称略)
3年前にホワイトカラー向けにMRでビジネスをやろうとしていました。
POC段階まで進んでいましたか?
大熊
はい、POC段階までできていました。『キングスマン』という映画に出てくる多機能メガネをイメージしたものを作ろうとしていました。オフィスワーカー向けに提供できないか2年ぐらいかけて試行錯誤していました。
(※注:動画のリアルタイム送信([TRANSMITTING]と表示)」とAR・VRで会議に参加できる「会議モード([CONFERENCE]と表示)」2つのモードが存在。)
プラットフォームを活用していましたか?
大熊
プラットフォームはありませんでした。なので、自分たちでゼロから作ろうとしていました。
具体的には、iPhoneでキャプチャーした3D映像を圧縮して、リアルタイムで遠距離通信、AR/MRグラス側で解凍させ、3D再生したものを開発していました。実際、iPhoneで撮影した複数人の3D映像を、圧縮・リアルタイム転送させ、グラスで表示できるところまでは開発できました。しかし、ハードが高すぎる、重すぎるなどの問題があり、実用化までにまだ超えなければならないハードルは沢山ありました。
POC段階までどれぐらい投資しましたか?
大熊
開発は1年ぐらいかけてやっていました。しかし、市場的にはホワイトカラー向けにまだは早いかなという感じでした。
日本ではMRを活用したベンチャーは出づらい環境でしょうか?
大熊
まだハードが普及していないので、論理的な説明が成り立たないビジョンだけの段階では、短期的に仮説を証明できる数字もたたないので、それを許容してくれないケースは多いとは思います。
福田
西海岸だったらエンジェルがいるので、それで投資するということを言ってくれるが、日本だと難しいですよね。
DX支援について
さて、中小企業支援の方でいろいろとお伺いできればと思います。福田さんのほうでは中小企業のDX支援ということでやられていますか?具体的にはどのようなことをされていますか?
福田
困りごとを聞いて、こういうコンピュータを使ったらミスが減りますよねとか、短い時間でできますよねとかいうのを提案しながら支援をします。
コンサルティングに近いかたちになりますか?
福田
そうですね。(先方からは)「ちょっと教えてよ」ということから入りますが、正しくコンサルですね。仕様書を作るところまでをやります。
どういう相談が多いですか?
福田
産業系、例えばモノづくりとかが多いです。
工程を減らすことで原価を下げられるとかいう感じの提案が多いですか?
福田
工程は減らせないので、どこにロスがあるかをチェックします。
一番肝心なのは、働いている人のモチベーションです。ラインにコンピュータを入れるとなると現場は非常に嫌がります。そこを現場の意見を聞きつつ、みんながハッピーになる方法を考えます。そのうえで、システムを入れます。
DXはたいていは管理側からやろうということになり、現場は一方的にそれを申しつけられる立場ということが多いです。しかし、重要なのは現場サイドなので、納得してやっていただくことが大切だと思います。
大熊さんも中小企業へ支援をしていますが、同じような感じですか?
大熊
どちらかというと、IT関連の新規事業立ち上げ支援が7割で、それをDXというと微妙ですが、あとの3割はITを活用した効率化という話が多いです。
たとえば、コミュニケーションをシンプルにSlackやGsuiteに置き換えたり、業務フローを整備して必要なSaaSを導入する等、基礎的なお手伝いをしているケースもあります。
フローを見ながら提案するかたちでしょうか?
大熊
基本はその通りです。中小企業は短期で成果がでないと、続けられません。大枠のビジョンよりも短期、費用対効果が高いものからどんどん推進することが多いです。
福田さんもクライアントからは費用対効果を求められますか?
福田
そうですね。中小企業は早くやってすぐに結果が欲しい。一番難しいことを言います。
安い、早い、うまい、正しく牛丼と同じで。
たいていは、「紙で管理しているのは何ですか?」と聞くところから始めます。
それが一番分かりやすいです。いままで紙を使っていたものをスマホでできるようにします。大抵の工場は、大手でもホワイトボードに紙を貼っている状況ですが、紙からデジタルにすることが一番手っ取り早いです。
そこから開発が必要になるケースは多いですか?
福田
開発に関しては一気にやらなくてよいと思います。ちょこちょこやれば良いです。
スモールスタートでないと進められないと思います。
現場にハンズオンで入って支援をしますか?
福田
そうです、現場に入らないとわかりません。現場と同じ目線でないと使ってはくれません。
大熊さんも同様に現場に入りますか?
大熊
そうですね。100%現場に入ってやります。
DX支援における課題
DX支援において課題感はどこにありますか?福田さんはいかがでしょうか?
福田
とにかくDXが何かについては、中小企業の人は分かっているようでわからないケースが多いです。単にデジタル化しようよというシンプルな話です。
実際、例えばオペレーションの中にタブレットを導入したり、教育をしたりする必要性はあると思いますが、現場からの抵抗はありますか?
福田
職人さんがいるところが一番難しいです。前職でも、ヒアリングは職人さんからしました。大抵ヒアリングをすると、「できるか!そんなの!」と言われます。
それに対しては、「仲間になってやりましょうよ」と言って入りました。
大熊さんも、そういう現場のキーパーソンと話しながら進めますか?
大熊
そうですね。僕の場合は社長とやりとりをさせていただくので、社長から直接課題を聞きながら進めます。
福田
社長と現場の温度差があると怖いですよね。
大熊
そうですね。現場は課題意識が少ないこともありますが、そこにも気を遣いながら、巻き込みます。上から言うのではなく、手を動かして、寄り添いながら推進します。
現場サイドとの信頼関係の作り方はどうしていますか?
大熊
オフラインや1on1で打ち合わせをしています。日常業務での課題の話とか、会社の全体感とか大枠の話をしたりします。
その話の中で課題を拾ったりしていますか?
大熊
そうですね。それをベースに、ビジネス上で困っていることを最短で結果を出すのを考え提案します。
実際、DXを推進することでどのような成果がでましたか?
大熊
例えば、メーカー様が新規でEコマースを起ち上げて力を入れていくにあたり、今までローカルのエクセルでバラバラ管理されていた商品データを統合的にスプレッドシートで整理して、分析できるようにしたことで、改善ポイントが可視化され、プラットフォームでの売上も数ヶ月で毎月数百万円ぐらい売上が上がるなどの即効性の高い効果もでました。今後は更にデータはSaaSに移行させて、更に効率よくBIで分析できる環境を整備していく想定ですが、短期で出来ることでも価値は大きいなと思いました。
中の人だと、そういうことをやることは難しいですか?
大熊
そうですね。役割を与えられていないと難しいと思います。改革や新規事業を自らやりたい人材も多くないと思います。
人材がいない問題は福田さんのコンサルティング先でも同様ですか?
福田
そうですね。専任のチームがないことがほとんどです。
DXに関していうと、日本の中小企業は費用対効果に厳しく、一方で予算ある大企業はR&Dを積極的にやるという二極化が進んでいるということですかね?
福田
R&Dに関しては売上規模がある程度超えたらやる傾向にあると思います。
R&Dやることで、5年後、10年後成果がでるということは、ありますか?
福田
今持っている技術からの転用であれば、うまくいくかもしれないと思います。例えば、
特殊印刷技術を持つ印刷屋がR&Dをやる際に、スマートグラスやりたいとなると、やめとけとアドバイスをしますが、電子部品の基盤へのプリント技術の応用という方向であれば、印刷技術が活用できるからうまくいくだろうと思いますし、通電インクとか、そういう方向新しい技術ならありかなという気がします。
大熊さんの新規事業支援に関しては既存の技術の派生が多いですか?
大熊
そうですね。技術的なリードよりもリソースベースからの新規事業支援が多いです。
あるクライアント様では、運送に関連するプラットフォームですが、技術は既存のものを使っています。
マネタイズに関してはシビアに見ますか?
大熊
そうですね。一定の投資期間での事業計画を作ります。ある一定の期間内で、ある条件を超えないと撤退ということも含めて考えます。例えば、500万円、1000万円を出して全く成果でなければ、変えましょうとかを提案しています。
最後に
最後に、今の日本のDXについて思うことはありますか?
福田
DXは、コンピューター入れて効率化するということに関してはありかと思います。大きいところからやる必要は無く、地に足をつけて、スロースタートでやることから始めた方がよいと思います。
大熊
中小企業は、大きな絵を描くよりも小さな投資からスタートして、まずは回収をする。そのうえで、キャッシュを確保して、次に新しいものに投資したりする循環を作ることが大切だと思います。
本日はお忙しいところ、ありがとうございました。
【監修者】編集長
プライムDXブログ編集部の編集長。現在はプライムスタイル株式会社新規事業、マーケティング担当も兼務。皆様にとって役立つ情報提供を心掛けて参りたいと思います。