日本のDXへの取組み
2018年9月に経済産業省が『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』を発表しています。このレポートはDX実現が出来なかった場合の、2025 年までに予想される IT 人材の引退やサポート終了等によるリスクの高まり等に伴う経済損失が、最大12兆円/年(現在の約3倍)にのぼる可能性があることを示しました。このことが話題となり、社会全体としてもDXに取り組む必要があるという意識を持つ人々が増加したと言われています。
しかし、着目されている一方では、DXに対して、「IT化・デジタル化のこと」「業務の効率化の実行」といった解釈をしている人も少なくなく、理解に齟齬が生まれているという現状もあります。このような状況も含め、日本でのDXに対する認識の程度や危機感の感じ方、そしてDX化の実現にはまだ多くの課題が残っており、2020年10月時点で223社が自己診断した結果を情報処理推進機構(IPA)が分析したところ、部門横断で持続的にDXに向けた取り組みを実施している企業は全体のわずか8%に留まりました。
このようにDXが進まない原因は大きく2つあると考えられます。
①IT人材の不足
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)社会基盤センターのIT人材白書2020によると、IT企業によるIT人材の不足感(大幅に不足している・やや不足しているに回答した企業)は、90%を超えています。また、経済産業省委託事業の調査によると、最も悪いシナリオでは79万人のIT人材が不足すると考えられていることからもIT人材が不足していることがわかります。DXを実現しようにも、人手が足りなければ迅速に対応することが出来ないのは一目瞭然です。
②古いシステム(レガシーシステム)の残存
既存のITシステムの多くが老朽化やブラックボックス化、運用費用の圧迫など様々な問題を抱えており、DX実現を妨げているという指摘があります。経済産業省によるDXレポート内でも、2025年までにシステムの刷新が出来なければ、大きな経済損失が発生する可能性があると述べられており、警鐘が鳴らされています。
ここからはレガシーシステムに焦点を当ててご説明いたします。
(参考)DXのために運用部門が今、やるべきこととは | アシスト (ashisuto.co.jp)
日本のDXは本当に遅れているのか?「DXサーベイ」から見る900社の実態【前編】 : FUJITSU JOURNAL(富士通ジャーナル)
https://blog.global.fujitsu.com/jp/2019-09-26/01/
日本企業9割以上はDX未達も「想定内」の真意、2021年は推進元年に | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)
レガシーシステム
そもそも、「レガシー」とは「古いもの・時代遅れのもの」というニュアンスを持っており、レガシーシステムとは最新の技術や製品を用いた情報システムと対応して総体的に時代遅れとなった既存システムを示しています。
では、なぜ古いシステムを変えなければならないのでしょうか。ここでは2つの理由をご紹介しましょう。
1つ目はセキュリティリスクが排除できないからです。サポートが終了した古いOSを使用していたり、パッチの迅速な適用が困難なシステムを運用していたりしている場合、脆弱性を狙った攻撃を防御することが難しくなります。つまり、使い続けることで顧客やユーザーにも危険が及ぶことになり得ます。
2点目は社会の変化も影響しています。これまでの基幹業務システムは、一度構築したら10年間は利用する等、長期間の使用が前提として考えられていました。しかし、今日ではIoTの導入などにより以前と比べ莫大な量のデータが入手できるようになりビジネスモデルも変化してきました。これにより、変化に応じて素早く対応すること、新しい技術を随時取り入れていくこと等、迅速に変化することの出来るシステムが重要になっているのです。
それでは、事例を用いることで保守運用をどう変えていくのか、またどのようなメリットがあるのかを考えていただきたいと思います。
(参考)
日本企業におけるレガシーシステムのモダナイゼーションのポイント| アクセンチュア (accenture.com)
DXとは何か、その本質について整理しよう | DX広告特集 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準 (toyokeizai.net)
アフターコロナ時代を生き残る、「2025年の崖」に落ちない基幹系の3条件 – 基幹系システムが変わる…:日経クロステック Active (nikkeibp.co.jp)
DXのために運用部門が今、やるべきこととは | アシスト (ashisuto.co.jp)
https://sackle.co.jp/blog/detail/1082-2
基幹系もいよいよクラウドの時代へ――日本企業のIT環境としての最適解は、どのような形態か (2/2):基幹業務のSoRはどこまでクラウド化できるのか(1) – @IT (atmarkit.co.jp)
保守運用の変革事例
マツダ株式会社ヘルプデスク業務【富士通株式会社】
マツダ株式会社は、販売店のICT運用を支援するヘルプデスク部門において、Systemwalker Cloud Business Service Managementを活用したICT運用状況の見える化に取り組んでいます。
当時は、ヘルプデスクからの報告は1日1回のみのExcelレポートのみであり、ICT運用状況を迅速に把握する仕組みが存在していませんでした。しかし今回の導入によりダッシュボードを活用することでヘルプデスクの現状がすぐにわかるようになっただけでなく、問い合わせの状況をリアルタイムに情報共有することが可能になりました。これにより問題解決への正確かつ迅速な対応が実現されました。また、現場の状況がわかりやすくなったことでプログラムの回収・開発・廃止などのシステム改善が行いやすくなり、費用対効果においても効果を発揮しやすい環境になったという声も上がっています。
(参考)
ヘルプデスク業務と運用保守業務をAIで革新し飛躍的に向上させたお客様へのパフォーマンス!|ソフトウェア : 富士通 (fujitsu.com)
レガシーシステム縮小によるDX人材の確保【住友生命保険相互会社】
DX推進を担う人材不足を問題として抱える企業が多い中、住友生命保険相互会社はレガシーシステムを縮小することによりDX推進人材を獲得しています。
同社は、グループ内のエンジニアがDXに向くかどうかを数値で見極め、適性の高い人材をDXプロジェクトに採用しています。この活動により、レガシーシステムの保守運用やインフラ設計を担当していた人など、レガシー現場にDX人材が多数いることが発覚しました。
そして、彼らをメインフレームの保守運用中心の現場からDX現場へと採用することで定型業務から離すことが出来、保守運用現場のレガシーシステムを縮小させることで、結果としてDXの加速だけでなく飽きにより離職する人材を減らすことが出来たのです。
(参考)住友生命が目をつけた意外なDX人材「発掘先」 :日本経済新聞 (nikkei.com)
時代に応じた保守運用
上で述べた事例からもおわかりいただけるように、既存のシステムの保守運用コストはIT予算全体のかなりの割合を占めることが多くあります。このことはDXレポートでも分析されており、IT予算の7~8割が付加価値を生まない保守運用に割かれていると述べられています。さらに、レガシーシステムが残存することはIT人材の不足にも影響を与えています。つまり、新しいシステムを導入し、効率よくDXを進めていくためには現状を根本から見直し、目的を明確化させたうえで保守運用における変革を実施していく必要があるといえます。
ここで認識していただきたいのは、業務プロセスの見直しを一度実施したとしても、そこで見直しの活動を停止してしまえば業務プロセスがレガシー化してしまうということです。この状況を防ぐためには業務プロセスは恒常的な見直しをしていく必要があり、ユーザー企業もベンダー企業もこの状況に対応していくことが重要となります。
DXレポートに記載があり、一つの目安伴っている2025年という比較的短期間の中で各企業がDXを実施するためには、削減可能な保守費・運用費を削減し、DX実行のために必要となるIT投資にヒト・モノ・カネを振り分けていくのが良いかと思います。
(参考)
20201228004-3.pdf (meti.go.jp)
DXを阻害するレガシーシステム-問題点と解決策 | 「フルサポートMEDIA」 (kigyou-fullsupport.com)
DXとは何か、その本質について整理しよう | DX広告特集 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準 (toyokeizai.net)
なぜ今「第三者保守」が注目されるのか – 2025年の崖を乗り越えDXを実現するために|ソリューション|IT製品の事例・解説記事 (mynavi.jp)