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DX時代における人間中心設計について

人間中心設計とは?

 人間中心設計(Human Centered Design)とは、ユーザーの視点からプロダクトやサービスを開発していくための手法です。従来の製品開発では主に「モノ」志向の開発でしたが、人間中心設計では「ヒト」志向の開発になります。

 人間中心設計の概念は、カリフォルニア大学サンティエゴ校の認知心理学者ドナルド・A・ノーマン(Donald A. Norman)により提唱されました。 彼の著書『誰のためのデザイン?』では、人間中心設計について次のように書かれています。

「人間中心設計はデザインの哲学である。それはデザインが満足させようとする人々とそのニーズに対する良い理解からスタートすることを意味している。この理解は、主として観察することから得られる。人は自分の真のニーズに気がついていないことが多いし、ときには出会った難しさに気づいていないこともある。モノの仕様を決定するのはデザインの中で最も難しい部分なので、人間中心設計の原則は、できるだけ長い間、問題を特定することを避け、その代わりに剪定的なデザインを繰り返していくことにある」

(ドナルド・A・ノーマン『誰のためのデザイン』p.12より引用)

 このように、人間中心設計はユーザーを中心とした設計の手法として提唱されました。

 また、ISO規格である「ISO 13407インタラクティブシステムのための人間中心設計プロセス」は、英国ラフボロー工科大学の人間工学者ブライアン・シャッケルによって、1999年に国際規格化されました。

 そして、2010年には、「ISO9241インタラクティブシステムのため人間中心設計」が新しく規格され、インタラクティブシステムだけでなく、サービスも含むようになりました。ISO9241では、人間中心設計について次のように述べられています。

「システムの使い方に焦点を当てることで、人間工学やユーザビリティの知識と技術を適用し、インタラクティブシステムをより使いやすくすることを目的とするシステムの設計と開発へのアプローチ」

 このように、人間中心設計はユーザを中心とした設計と開発のアプローチとして捉えられています。

(参考:https://www.itmedia.co.jp/im/articles/0505/19/news123.html

人間中心設計における6つの原則

 また、国際規格では、人間中心設計における6つの原則について、次のように述べられています。

  1. ユーザー、タスク、環境の明確な理解に基づいたデザイン
  2. デザインと開発全体へのユーザー参加
  3. ユーザー中心の評価によるデザインの実施と洗練
  4. プロセスの繰り返し
  5. ユーザー体験(UX)全体に取り組むデザイン
  6. 学際的なスキル・視点を含むデザインチーム

 以下では、6つの原則について解説していきます。

原則1 ユーザー、タスク、環境の明確な理解に基づいたデザイン

 これは、どのような状況にプロダクトやサービスが用いられるのか、そしてその状況に最適なデザインとは何かを意味しています。

原則2 デザインと開発全体へのユーザー参加

  デザインがひとりよがりのものにならないために、プロダクトやサービスのユーザーと共同して開発していく必要があるということです。単に、ユーザーの意見を聴くだけでなく、積極的に取り入れていく必要があります。

原則3 ユーザー中心の評価によるデザインの実施と洗練

 デザインの良し悪しをデザイナーが頭の中だけで考えるのではなく、ユーザーの判断によって評価していくことが重要です。

原則4 プロセスの繰り返し

 一回限りのプロセスでは、適切にユーザーの評価を反映することができないかもしれません。そのため、プロセスを何度も繰り返していく必要があります。

原則5 ユーザー体験(UX)全体に取り組むデザイン

 ユーザーの体験を反映しなければ、人間中心の設計はできません。人間中心設計では、ユーザーの体験を第一にデザインすること重要です。

原則6 学際的なスキル・視点を含むデザインチーム

 人間中心設計では、多様なユーザーのニーズに答える必要があります。デザインチームに多様性があるほど、偏ったデザインではなく、多様なユーザーのニーズに答えることのできるデザインが可能です。

(参考:https://uxtxt.jp/hcd

(参考:ドナルド・ノーマン『誰のためのデザイン』https://ux-jump.com/about-hcd

人間中心設計の事例

 ここでは、人間中心設計の事例について紹介していきます。IT以外にも様々な製品に、人間中心設計のプロセスが使われています。

ドナルド・A・ノーマンのプッシュ・プルドア

 人間中心設計の例の一つとして、ドナルド・A・ノーマンのドアの例があります。例えば、持ち手のついているドアを押して開けるものだと思っていたら、引いて開けるものであったり、逆に引いて開けるものだと思っていたら、押したら開くといったことがあります。

 このように、一見したところ押せば開くのか引けば開くのか分からないという問題はどのようにして解決することができるのでしょうか。一つの解決策として、ドアに持ち手をつけないというデザインが考えられます。ドアに持ち手がついていないため、ドアを引くことができないため、ユーザーがドアを押すことで開けることができると判断することができるからです。

 ドナルド・A・ノーマンによれば、間違ったデザインとは、実際に行うべき動作とは、逆のことを示しているデザイン、もしくは、勘違いさせたり、正しく使用してもらうために何らかの表示を必要とするデザインと定義しています。

 ドナルド・A・ノーマンによれば、理想的なドアとはドアが開いたことや閉まったことに気がつかないということになります。

(参考:https://uxdesign.cc/human-centered-design-explained-with-examples-707133acf8b4

https://gigazine.net/news/20160304-bad-door-everywhere/

ハインツの倒立ケチャップボトル

 人間中心設計の別の例として、ハインツのケチャップボトルが挙げられます。通常のケチャップボトルでは、ケチャップの最後の一滴を絞り出すのが難しいという問題があります。

 ハインツの倒立ケチャップボトルは、ケチャップボトルの蓋が上についているのではなく、ケチャップボトルの蓋が下についており、まるで倒立しているかのようなデザインとなっています。

 このような、ユーザーの潜在的なニーズを解決するデザインも人間中心設計プロセスで作られた製品の一つであると言えます。

株式会社remyの「レミパンプラス」

 株式会社remy「レミパンプラス」も人間中心設計プロセスで作られた製品の一つです。レミパンプラスは「調理のストレスを減らし、料理の楽しさをひとりでも多くの人に感じて欲しい」をコンセプトとして作られた、フライパンと鍋の二つの機能を持つ万能器具です。

 この商品を作る過程で、既存ユーザーを対象としたヒアリング、レミパンプラスを使った調理の行動観察、試作品を作る上での比較実験など行っています。

 これは、人間中心設計の原則「ユーザー中心の評価によるデザインの実施と洗練」にもとづいており、人間中心設計の優れた事例の一つといえるでしょう。

(参考:https://popinsight.jp/blog/?p=4219

https://remy.jp/item/remy_pan

DX時代に人間中心設計が重要な理由

 DX時代に、なぜ人間中心設計が重要なのでしょうか。実は、DX研究者であるIMDのマイケル・ウェイドによればDXの取組の大半が失敗に終わっているといいます。

 一つの原因として、DXのゴールを新しいシステムの導入として捉えていることが挙げられます。せっかくDXのために新しいシステムを導入しても、ユーザー・エクスペリエンスなどが考慮されていなければ、失敗に終わる可能性が高いです。

 DXで成功している企業の多くは人間中心設計の観点から、プロダクトやサービスを開発しています。

Trello

 タスク管理で有名なTrelloは全ての情報を一つの画面で閲覧することができます。そのため、進行状況の監視がたやすくユーザー中心に設計されているといえます。また、オンライン上でタスク管理やプロジェクト管理を可能にしているという点で、DXにも成功しているのです。

Venmo

 Venmoは人間中心設計とDXの二つの点で大きな成功を収めています。誰かにお金を借りたとき、面と向かってお金を返すことには心理的に難しいこともあります。しかし、Venmoはそれをオンライン上で行うことを可能にしたという点で、人間中心設計とDXの両方を達成しているのです。

まとめ

このように、DX時代において、人間中心設計はサービスやプロダクトが成功するために必要不可欠と言えます。せっかくDXに成功したとしても、人間中心設計のプロセスに基づいていなければ、そのサービスやプロダクトは失敗に終わる可能性が高いです。そのため、単にデジタル技術を取り入れるだけでなく、人間中心設計プロセスに基づいて、サービスやプロダクトを開発していく必要があるといえます。

(参考

https://www.cct-inc.co.jp/media/dx/news/primer/failed_3reasons/

https://www.uxpin.com/studio/blog/human-centered-design/

https://fstandard.co.jp/column/life/1449

 

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